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復刻版 院長書きおろしエッセイ /2013年01月23日号

院長が、2001年から2004年にかけ、連載していたエッセイからの転載です。

「おやつ1個」ジロウ

今日は、気持ちいいほど良い天気。
ジョンや太郎が遊んでる。ここからは、それがよく見えるんだ。
僕、ジョンの弟のジロウ。訳あって、もうみんなと遊べなくなったんだ。


冬の寒さも和らいで、そろそろ桜なんて思ってた頃だった。ある朝起きてみると、右の前足が痛かった。 地面に着くのが痛かったから持ち上げてたんだ。いつものように母さんが、「散歩に行こう」ってボクの所に来た。 足を見るなり「どうしたの? 腫れちゃってるじゃない。大丈夫?」って言われたんだけど、 とにかく散歩が嬉しいボクは、右の前足を上げたまんま散歩に出かけた。途中で母さんが、「やっぱり病院に行った方が良いんじゃない。」ってポツリ。 姉ちゃんが帰ってくるのを待って、病院に行ったんだ。

台の上に乗っけられて、先生が前足をさわる。 最初はくすぐったかったけど、ギュッと掴まれるととっても痛かった。先生とお姉ちゃんが何か喋ってる。 話が終わると先生は、ボクにちっちゃなおやつをくれた。 それがとっても美味しいの何の。思わず尻尾を振っちゃった。 でも先生、1個しかくれなかったな。その味が忘れられなくて、病院に行きたいってずーっと思ってた。 あ、そう言えば、「いつも背中にチクンとうつ注射、今日はなかったなぁ。」ってフッと思ったけど、すぐ忘れた。

翌日も病院に行った。 今度は、針を背中に刺さずに右前足の腫れているところに刺したんだけど、無茶苦茶痛かった。 その日もそれで終わり。「よく我慢したな。」って誉めてもらいながら、おやつを1個。 「おやつをもらえるんだったら、毎日来ても良いかな。」なんて思ってた。

その翌日は、ボクは台に乗せられることもなく、おやつを1個もらっただけ。 先生と母さん、お姉ちゃんが話してた。何か、みんな神妙な顔をしてた。 どうやらボクの右前足を切っちゃうらしい。 ガンができちゃって、薬じゃぁ治らないらしかった。すごくショックだった。 「もう走れない」とか「もう遊べない」とか、真剣に悩んじゃったけど、おやつをもらう時だけは、とにかく嬉しい。


またまた翌日、とうとう手術の日がやってきた。 その日だけは、先生、おやつをくれなかった。 後で分かったことだけど、手術の前には食べちゃぁいけないらしい。 冷たい手術台、腫れてない前足にチクン。。。 フーッと意識が遠のいていった。 どれくらい経ったのだろう。 ポカポカ身体が暖かい。ヒーターって気持ちいい。 意識が回復するに連れて、右前足がやけに痛む。 この痛みは、意識がはっきりすればはっきりするほど激しくなってくる。 我慢できなくて泣いてたら、先生が来て、お尻に注射をチクン。だんだん我慢できる痛みになっていった。

立ってみる。 三本足だからバランスがとりにくい。 何回も転けたけど、段々上手く歩けるようになった。 退院してからは、リハビリに精を出し、見る見る走れるようになった。 お姉ちゃんや母さんと散歩に行くのが楽しい。 そうそうあれから1週間に1度、病院にも行くようになったんだけど、先生に向かって尻尾を振ると、先生も嬉しそうにおやつを1個。


春が過ぎて、夏が来て、もうすぐ秋っていう時。 何だか、運動すると咳き込むようになった。 お姉ちゃんが先生に言うと、胸のレントゲンを撮った。 レントゲンには、まん丸い白い陰がたくさん見えた。 先生がお姉ちゃんに話をすると、お姉ちゃんが泣いてた。 背中にチクン。 帰りに飲み薬をもらって帰った。 その日からだいぶせきも楽になった。 散歩にも行けるようになったけど、前ほど元気に走れなかった。


確実に冬の足音が聞こえる。 寒いからかも知れないけれど、動くのがイヤになる。 相変わらずの病院通いで、薬は飲んでいるのに段々咳がひどくなる。 ひどくなるに連れて、薬の量も増えてきた。 「やだなぁ〜、咳。」って思うと、余計に動くのがかったるい。 でも動物病院に行く時だけは頑張れた。 お姉ちゃんと母さん、不思議そうに「家じゃぁ、動かないんですけど。」って先生に苦笑い。 理由? もちろんおやつ1個。

ホントに動けなくなってきた。 ちょっと動くと咳が止まらない。動かなくても咳が止まらない。


ある日、いつもより早い夕御飯が出てきた。すごいご馳走。 ボクの大好きなものばかりだ。 嬉しくって食べようとしたら、また咳。 時間はかかったけど、最後まできれいに平らげた。 お姉ちゃんと母さん、ボクが食べているのを見ながら泣いていた。 それから病院に行った。台の上に乗せてもらっておやつを1個。 お姉ちゃんと母さんは、ひとしきりボクを撫でてくれた後、部屋から出ていった。 ボクは「さよなら」ってつぶやいた。 先生がおやつをもう1個。 1本になった前足に注射をチクン。遠のく意識の中で、口一杯におやつの余韻。



大好きなおやつ1個。 ボクの顔に雫が1滴。



今日も、気持ちいいほど良い天気。
ジョンや太郎が遊んでる。ここからは、それがよく見えるんだ。




<診察した獣医からのコメント>

  • 「足が腫れている」とか、「足を痛がっている」と言って病院にワンちゃんが連れてこられるのは、比較的多いケースです。 関節、骨、腱、皮膚などの、どこに異常があっても痛がることがありますので、 原因をはっきりする事が、治療する上での大切なポイントになります。 ですから、そのために色々な検査をして原因を究明していきます。
  • ジロウの場合、レントゲン検査で骨の腫瘍を疑わせるサインが出ていましたので、 針を刺して細胞の検査をしたところ、ガン細胞が出ていました。 それでも大切な足ですから、簡単に切ることはできません。 麻酔をかけてその部分から少量の骨を取って検査センターに出してみたところ、 「骨肉腫(こつにくしゅ)」という悪性の骨腫瘍(骨のガン)細胞が出てきました。 このガンは、たちが悪く、ものすごく痛いガンなので、一刻も早く足を切る必要があります。 飼い主さんにその事を告げ、ご家族で相談してもらった結果、足を切ることになりました。 人間の場合、手術をした後も切り取ったはずの足があるかのように痛みが出ると聞いています。 ジロウには、手術前にも痛み止めを使いましたが、それでも麻酔が覚めるに連れて痛がっていましたので、 別の痛み止めを使ってあげたところ、少しは楽になったようでした。 翌日から三本足で歩き始め、リハビリの甲斐あって、走れるまでになりました。 最後は骨肉腫の典型的な転移場所、肺に転移してしまって、手の打ちようがなくなり苦しんでいましたので、安楽死という方法を取りました。
  • 余談になりますが、いつもジロウは病院に来ると、ちぎれんばかりにシッポを振りながら僕のところに駆け寄って来ました。 特に三本足になってから、咳が出始めてからと、病気が悪くなるに連れて余計にシッポを振っていたような気がします。 その時の表情が、何だかうれしそうに見えてしまって・・・ 多分、ジロウにとっては「おやつをくれるから」という理由があったから、そうしたんでしょうけど。
    ちょっと都合のよい解釈かもしれません。
  • 最後におやつをあげたのは、安楽死をするほんの1分前のこと。
    もう立てないのに、咳が出てどうしようもないのに、それでもシッポを振りながら「おやつ」をねだるので、「あげるからシッポ振らなくて良いよ。」って言いながら、熱いものがこみ上げてきたのを今でもハッキリ覚えています。 注射をうつ前に、「よく頑張ったね。」って声をかけるのが精一杯でした。
  • 病院に連れて来てくれたお姉さんやお母さん、手術、リハビリ、安楽死と大変な決断や行動をされたご家族の皆さん、きっとジロウは、いつも僕たちを見てくれていることでしょう、シッポを振りながらね。

    ジロウ、ありがとね。

    このお話は、去年、僕の病院で実際に起きた出来事を綴ってみました。
  • ドッグファン2001年01号掲載分から

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