2004年02月29日号

「神奈川県獣医師会学術症例報告会」で発表します!!

2004年3月20日 神奈川県獣医師会学術症例報告会
マーブル動物病院からの演題
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1.ダルメシアンの腎異形成の1例 
  
○日比佐知子、大沼和気子、難波信一 マーブル動物病院・神奈川県藤沢市

2.犬の半陰陽の一症例

○大沼和気子1) 日比佐知子1) 石名坂豪2) 津曲茂久2) 難波信一1)
1)マーブル動物病院・神奈川県藤沢市 2)日大獣医臨床繁殖学研究室

3.CLIA法によるサイロキシン(T4)、遊離サイロキシン(fT4)の測定と犬甲状腺機能低下症の診断に対する有用性の検討189症例(2002年11月−2004年01月)

難波信一、日比佐知子、大沼和気子 マーブル動物病院・神奈川県藤沢市
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ダルメシアンの腎異形成の1例

○日比佐知子、大沼和気子、難波信一

Tはじめに:
 腎異形成は幼齢から多飲多尿など慢性腎不全の臨床症状を起こす先天性の疾患で、ゴールデンレトリバー、シーズー等で報告され、猫には稀である。腎臓は小さく不整で、組織学的には尿管芽と後腎芽組織の分化発育過程の異常が特徴である。今回、ダルメシアンの腎異形成に遭遇したのでその概要を報告する。

U症例:
 初診時6ヶ月齢、未避妊雌のダルメシアンである。4ヶ月齢から多飲多尿を呈していた。ワクチン接種済み。
 身体一般検査では体温38.0度。体重8.3kgで削痩していた。来院時(第1病日)には、他院にて連日皮下輸液を行われていたため元気、食欲とも良好であった。可視粘膜の蒼白が顕著であった。
 血液検査(表)において非再生性貧血所見、血中の総蛋白、アルブミンの低下、尿素窒素、クレアチニン、総コレステロール、アルカリフォスファターゼ、総カルシウム、無機リンの上昇が認められた。
 尿検査では低比重尿(SG.1.005)以外の異常は認められなかった。
 多飲多尿、低比重尿、血中尿素窒素、クレアチニン、総カルシウム、無機リンの上昇および非再生性貧血の存在より慢性腎不全と診断した。症例は若齢なことから先天性の腎疾患である可能性を考えた。

 追加検査
 第10病日のイオヘキソールクリアランス検査によるGFRの測定では腎機能が正常の12%であった。
 静脈性尿路造影では両側の腎臓ともほとんど描出されなかった。

V治療および経過
 第1病日には1日に乾燥硫酸鉄160mgおよび植物性活性炭800mgを処方し腎臓用の療法食を与えた。第5病日には血中尿素窒素が50mg/dlを越えたため1日にリンゲル液250mlの皮下輸液を開始した。第16病日から嘔吐が認められシメチジ40mg、塩酸メトクロプラミド4mgおよびスクラルファート1.8gの投与を開始した。第31病日には元気消失が見られたため、週3回の750IU組み換え型ヒトエリスロポエチン投与を開始した。食欲は不規則だが第52病日までみられた。衰弱は歩行が困難な程度まで進行し第53病日に死亡した。剖検を行った。
 剖検所見(腎臓).大きさは3.5×2cmと小さく、輪郭はやや不整であった。実質は正常な皮質構造は認められず、ほとんどの糸球体が未熟、尿細管も半数以上は変性、壊死あるいは拡張、小さい管腔等の未分化な形態を呈し、マクロファージやリンパ球、形質細胞の浸潤を伴う線維化で占められた。変性した糸球体のボーマン嚢には未熟あるいは萎縮した血管網が存在し、嚢内には好酸性物質、石灰沈着が見られた。また髄質は、広範囲に線維化を示し、大部分の尿細管、集合管、および腎盂内は変性・壊死を呈した。左右の腎臓ともほぼ同様な所見であった。

W考察:
 腎異形成はまれではないが、日常の診療で遭遇する機会はそれほど多くない疾患である。本疾患は偶発的よりも家族性に高率に発生する。しかしながら、症例の血縁について調査を行うことができなかったため、家族性かどうかということについて言及できない。
 本疾患は腎移植を行なう以外は予後不良で、現時点では困難である。ゆえに確定診断が重要である。
 腎機能の評価を血中の尿素窒素およびクレアチニンのみで行なうことは、代償期を判定できないこと、そして1つの評価に依存するということになり危険である。腎不全重症度の評価はヒトではAHAの腎疾患委員会の試案によると臨床症状、腎機能障害(クレアチニンクリアランスおよび血清クレアチニン値)および身体的活動で行う。小動物におけるクレアチニンクリアランスの検査は手技が比較的煩雑である。今回獣医腎臓学研究所に依頼してイオヘキソールクリアランス検査によるGFRの測定を行ったが、検査の方法は1回のイオヘキソール投与および4回の採血という簡便で患者にも大きな負担がかからない検査であった。これからも腎機能に問題のある患者には積極的に行うべき検査であると感じた。
 異形成の程度により疾患の進行に個体差が大きいことは知られているが、症例は6ヶ月齢と比較的早期に仮診断を行ったにも関わらず8ヶ月齢での死亡という結果になり、経過が速かったことが残念である。


犬の半陰陽の一症例


○大沼和気子1) 日比佐知子1) 石名坂豪2) 津曲茂久2) 難波信一1)

T.はじめに
 半陰陽とは解剖学的に完全な雌型または雄型を示さず、両性の特徴を併せ持つ状態をいう。そしてその分類は性腺の組織学的所見によって行なわれ、真性半陰陽は一個体において卵巣と精巣の両生殖巣を持つか、あるいは両組織の混在した卵精巣を持つものを真性半陰陽といい、外部生殖器や第二次性徴が示す性とは反対の生殖巣をもつものを仮性半陰陽という。雄性仮性半陰陽は精巣を持つものを、雌性仮性半陰陽は卵巣を有するものをいう1)。今回、雌性仮性半陰陽と思われる症例に遭遇し、末梢血の採取を行い、血漿中の性ホルモン濃度の測定および、性分化において重要な役割を示す
SRY遺伝子の検出による性別検査を行ったのでその概要を報告する。

U.症例
 症例はイングリッシュ・コッカースパニエル、4カ月齢、体重3.36kg、外陰部に突起様物がみとめられるとのことで当院に来院した。初診時の一般身体検査では、拡大した外陰部およびその中央に突起様物がみられた。下腹部のX線検査所見では外陰部の突起様物内に陰茎骨様組織がみとめられた。血液検査および血液性化学検査において異常値はみとめられなかった。身体一般検査および下腹部X線検査所見から本症例を半陰陽と仮診断した。
 さらに詳細な検査として、初診時およびその1カ月後の来院時に末梢血の採取を行い、血漿中性ホルモン濃度の測定を実施し、また初診時の血液に関しては
SRY遺伝子の検出による性別の判定を日本大学獣医臨床繁殖学研究室に依頼した。

V.結果
 初診時における血漿中の性ホルモン濃度の測定では、プロゲステロン0.49 ng/ml、エストラジオール16.54 pg/ml、2度目の来院時ではプロゲステロン 0.86 ng/ml、エストラジオール 9.00 pg/ml以下であった。テストステロンはいずれも0.10 ng/ml以下であった。またPCRによるSRY遺伝子の検出では、複数回実験を反復したもののSRY遺伝子は検出されず、遺伝子上は雌であると判定された。
 以上の結果から、本症例を雌性仮性半陰陽であると診断したが、その後の経過に関しては、当院はかかりつけの病院ではないため、把握が困難となった。

W.考察
 犬の半陰陽は過去に多くの報告がなされており、その確定診断は性腺の摘出による組織学的な検査によるところが大きい。今回我々は、日常の診療の中で比較的遭遇しにくい半陰陽の症例に対して、末梢血を採取し、血漿中の性ホルモン濃度の測定、および近年、性分化の重要な因子として注目されているSRY遺伝子の検出により本症例の診断を行った。
 今後これらの検査と性腺の組織学的検査の関連性に対する研究が待たれるが、どちらも比較的容易に実施できる検査であり、半陰陽の診断において有用と考えられる。

参考文献 
1)獣医繁殖学 文永堂出版
 

CLIA法によるサイロキシン(T4)、遊離サイロキシン(fT4)の測定と犬甲状腺機能低下症の診断に対する有用性の検討189症例(2002年11月−2004年01月)

難波信一、日比佐知子、大沼和気子

T.はじめに
 犬の甲状腺機能低下症は、我々小動物臨床獣医師にとって比較的よく遭遇する疾患であるが、甲状腺ホルモンが日内変動を示すことや非甲状腺疾患に左右されることなどから誤診を招きやすい疾患とも言える。現在、甲状腺ホルモン
T4、fT4の測定は、外注検査センターによるRIA、ELISA等が主流であり、院内検査をひとつの指標とするまでには至っていない。現在、当院ではCLIA法(スポットケムバイダス:アークレイ社製)によるT4、fT4の測定を行っており、統計処理を行なうに足りる症例数に達したので、その概要を報告する。

U.供試動物
 
2002年11月から2003年12月までの間に、当院で甲状腺ホルモンT4、fT4を測定した犬189頭。

V.方法
 甲状腺ホルモンを測定した犬を
1)軽症群:非甲状腺疾患で軽症の個体(143頭)、2)甲状腺機能低下症群:臨床症状と血液検査の他の所見から強く疑われた個体(37頭)、3)重症群:非甲状腺疾患で重症の個体(9頭)の三群に分け、CLIA法(スポットケムバイダス:アークレイ社)でT4、fT4を測定した。得られたデータについて各種統計解析を行った。

W.結果
 軽症群では
T4、fT4の中央値±標準偏差は20.28±9.59nmol/Lならびに6.51±2.60pmol/L、甲状腺機能低下症群ではT4 8.73±6.23nmol/LならびにfT4 2.39±0.89pmol/L、重症群ではT4 6.00±0.92nmol/LならびにfT4 2.88±1.29nmol/Lであった。軽症群と重症群のT4とfT4の間には、両群ともp<0.01で良好な相関関係が認められたのに対し、甲状腺機能低下症群では相関関係が認められなかった。またT4、fT4についてKruskal-Wallis検定とScheffeの多重比較法を用いて各群の判別分析を行ったところ、軽症に対して甲状腺機能低下症群と重症群の両群ともp<0.01で有意差を認めた。

X.考察
 アークレイ社スポットケムバイダスは、
CLIA法を採用しており、T4の測定値に関しては、RIA法と極めて良好に相関することが分かっている。一方のfT4を正確に測定するには、平衡透析法を併用したRIAが必須であるのは周知の事実である。
 上記の結果から、犬の甲状腺機能低下症の
fT4カットオフ値を3.00pmol/Lとすれば、極めて高率に診断できると考えられ、またfT4値が5.00mmol/Lであれば、極めて高率に除外できると考えられる。fT4が3.00-5.00mmol/Lの場合には、”グレイゾーン”として血中TSH濃度測定、TSH刺激試験、4週後の再検査等でスクリーニングを行うことが推奨される。
 また数例ではあるが、甲状腺機能低下症で抗甲状腺抗体のある患者では、従来から言われているとおり、
T4値は偽の高値を示していたが、そのような症例のfT4はCLIA法でも低値を示していた。
 以上のことから、この装置を用いて測定した
fT4値ならびにT4、fT4値の相関関係を分析することが、犬甲状腺機能低下症の良い診断指標となる可能性がある。

Y.参考文献
1) RL Relford et al, Measurement of Total Thyroxine Levels in the Dog: The Impact of Different Test Methods on Clinical Interpretation. Proceedings, ACVIM2003
2) ME Peterson et al, Total Thyroxine Testing: Comparision of an In-House Test-Kit with Radioimmuno and Chemiluminescent Assays. Proceedings, ACVIM2003
3) 後藤ら 甲状腺ホルモン短時間測定装置による測定法の検討 獣医臨床病理学会プロシーディング