難波信一書き下ろし
エッセイ
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ポカポカとした日差しの中でうつらうつら。春だなぁなんて気持ちよさげにあくびをしていると、思い出したくもない現実がボクを襲う。後ろ足を背中の方に挙げて、頭をちょいと傾ける。これで攻撃態勢は整った。ここからが大切。挙げた足を一気に耳の周りに振り下ろし、爪を立てながらバリバリ、ボリボリ。一通り攻撃が終わるとまずはノビをする。そのうちにまた痒くなるので攻撃を繰り返す。 これを何日か繰り返すと、毎年のごとく攻撃のたびに激痛が耳を襲う。悲鳴をあげ始める梅雨前には、動物病院へと行くというのが恒例行事になってしまった。生まれてこのかた6年になるが、1度たりとも病院へ行かずに過ごした夏はない。おかげで両耳とも耳たぶはコケが生えたようになり、最近では耳も聞こえにくくなってきた。 今日は、ボクの耳について発表する機会が与えられたので、『ボクの耳の歴史』について書いてみたいと思う。 ボクがこの家に来たのは、生まれて2ヶ月くらいたった日のことだった。すぐさま動物病院に連れて行かれたボクは、すでに耳が痒かった。 まず先生は、コチョコチョと綿棒でボクの耳を掻いた。 「うぅぅぅぅ。。。痒いところに手が届くとはこの事だぁ!!」と思いながら、後ろ足で掻くのを手伝ってあげたら、「チロちゃんは、手伝わなくて良い。」と先生に言われたけど、どうしても後ろ足が動くのを止められなかった。 ボクの耳に入った綿棒さんが出てきた時、「俺の頭、真っ白だったのに、真っ黒けになったぢゃないか!!」って怒ってたっけ。綿棒さんの頭についた黒い耳垢を検査してみると、疥癬(かいせん)っていう耳ダニが、ボクの耳の穴に住処をつくっていたらしい。どうりで耳の中で「モゾモゾ動いているものがあるなぁ」なんて思ってたっけ。 犬の耳掃除は、人間の耳掃除とはちょっと違う。どうやら、耳穴の構造が違うのがその理由なんだって。人間は、耳の穴から鼓膜(こまく)まで水平らしいんだけど、僕たちの耳は、まず縦穴があってから横穴があって、そこから鼓膜が見える、つまり’L’字形に曲がっているんだ。人間たちの耳掃除を見ていると、綿棒さんを突っ込んだり、小さなスコップを耳に入れて耳垢を取っているけど、僕たちの耳は綿棒さんの頭を入れると、大きすぎて耳垢を奥に詰め込んでしまう。それに縦穴から先に横穴があるから、耳垢を押し込むと横穴に詰め込むだけで、あまり外には出てこない。だから耳掃除専用の液体を入れて、耳垢を浮かせてから耳の入り口のところで取る方法が良いんだって。 いつも病院に行くと、耳の中に液体をジャブジャブ入れて、グチュグチュマッサージしてくれる。最初は気持ち悪くてイヤだったけど、だんだん慣れてくると気持ち良くなってくる。それから耳の入り口に綿を当ててキタナイ液を吸い取る。これを繰り返していくうちに、液体がきれいになる。薬を入れてもらって、ブルブル頭を振って余分な水気を飛ばして完了。ま。ざっとこういう治療なんだ。 耳の穴の状態について年を追って説明しようと思うんだけど、分かりやすくするために数字で表してみたいと思う。 穴の大きさ−10は広い、1は狭い 痒さ−10は痒い、0は痒くない コケみたいなの−10はコケみたいなの一杯、0はコケみたいなの無し 臭い−10はものすごく臭い、0は臭わない 痛い−10はものすごく痛い、0は痛くない 耳ダニが住み着いてた時は、穴の大きさ−10、痒さ−10、コケみたいなの−0、臭い−1、痛い−0だった。 何回か病院に通って、その時はすっきり治ってしまった。ま、寒い時期だったこともあったのかな。 翌春、痒くなったので、病院に行った。 先生「耳ダニから慢性の外耳炎になってしまうワンちゃんが多いんだよ。」 ボク「ボクは?」 先生「う〜ん、その可能性は大。」 また綿棒さんでコチョコチョやると、今度は前と違って、ちょっと茶色い耳垢が出てきた。顕微鏡を見た先生が帰ってきた。 先生「今度は酵母菌だな。」 ボク「こうぼきん?」 先生「ワンちゃんの耳はL字形だろ!? 原因が何だとしても、一度外耳炎になって炎症が起きると、耳穴全体の湿度が上がる。すると温度が高くて湿度も高いとなると、もともと皮膚にちょっとだけしかいない酵母菌が爆発的に増えて発酵する。発酵するとよけいに温度と湿度が上がるから酵母菌にとっては住みやすい条件が整ってしまう、という訳なんだよ。」 ボク「ふーん。」 先生「何だか、慢性外耳炎に一直線って感じだな。。。」 って深刻そうだった。 先生が後でこっそり教えてくれたんだけど、ボクの父さんと母さんは、「うちのチロ、耳が臭いんですけど。」って言って連れて来たらしい。ボクには「痒いの治そうね。」なんて言ってたくせに。自分のニオイは、よく分からないって言うけど、本当に分からない。あぁ、ボクは犬なのに。。。 酵母菌に耳穴を占領されていた時は、穴の大きさ10、痒さ−8、コケみたいなの−0、臭い−5、痛い−1だった。 夏の暑い日、ボクは母さんにシャンプーしてもらった。無茶苦茶気持ちよかった。頭の先からしっぽの先までそれはそれは丁寧に洗ってくれて、最後にザップーンって流してもらった時は最高だった。でも耳の中に水が入ったから頭を振ったんだけど、なかなか出てくれなかった。「ま、いっか。」と思ったのが間違いだった。3日ほど経つと、耳が痛かった。何もしないのに痛かった。病院に行くと、いつものように綿棒さんでコチョコチョされた瞬間、激痛が耳を襲った。「頼むから、検査するのに1回だけ採らせて!!」って言われたので、普段お世話になっていることも考えて、我慢するように努力はしたけど、「今度やられたら、噛むかも。」って思うくらい痛かった。 先生「チロ、今日は耳ダニでも、酵母菌でもない。細菌性の急性外耳炎だなぁ。。。」 ボク「な、な、何ですかそれ??」 先生「耳の穴にキタナイ水なんかが入った場合に、細菌が増えて耳の中の皮膚にヒドイ炎症を起こす。だから痛いんだなぁ。水浴びとか、シャンプーしたか??」 ボク「うん。シャンプー気持ちよかった。で、耳、どうする??」 先生「まぁ、抗生物質と炎症止めを飲んで、腫れが退いたら洗おう。」 ボク「了解。。。」 という訳で、薬を3日分飲んだら、段々痛くなくなってきた。また病院に通って耳をジャブジャブしたけれど、そんなに痛いと言う程じゃなかった。何日かすると良くなった。 細菌性の急性外耳炎の得点は、穴の大きさ9、痒さ−5、コケみたいなの−0、臭い−3、痛い−10だった。 父さんの仕事が急に忙しくなって、母さんも手伝うようになったので、ボクは一人で過ごす時間が多くなった。耳が痒くても、なかなか病院に連れて行ってもらえない。それでも父さんと母さんは、「少しでも良くしたい。」って、薬をもらってきてくれた。こうして5回の春を過ごした。 年々得点が増えていった。今の得点は、穴の大きさ−2、痒さ−5、コケみたいなの−8、臭い−10、痛い−5になった。 父さんの仕事が5年ぶりに一段落したので、病院に連れて行ってもらった。 先生「よっ。チロ、久しぶり。いつもワクチンで来ても、父さん忙しそうで、ゆっくり診てやれなかったなぁ。」 ボク「うん。痒いんだけどさぁ、父さん、母さん仕事頑張ってたし、なかなか言えなくてさ。」 先生「どれどれ。。。あぁ、耳の穴、塞がりそうだなぁ。コケみたいなのもガビガビだし。。。慢性外耳炎完成ってところだな。」 ボク「先生、冗談言ってる場合じゃないでしょ。で、どうする??」 先生「いやいや、悪い悪い。。。そうだなぁ、、、耳の手入れがしやすいように手術して、父さんと母さんに頑張ってもらうか。仕事も一段落したみたいだし、聞いてみてオッケーが出たら手術しようよ。」 ボク「うん。ちょっとでも痒みとか痛みがなくなるんだったら、そうしたいなぁ。ちょっと聞いてみてよ。」 先生と父さん、母さんが話してる。どうやらボクの耳の面倒を見る時間ができたらしい。 手術をして何ヶ月か経った。完全に痒みが取れた訳じゃない。でも前に比べるとずーっと良い。 耳の形は変わったけれど、穴の大きさ−8、痒さ−1、コケみたいなの−3、臭い−2、痛い−0。このくらいで我慢。。。かな。 【診察した獣医さんのコメント】 暖かくなり始めると、「痒い」と言って病院に来るワンちゃんが多くなります。チロちゃんのように外耳炎だったり、皮膚病だったり、原因は様々です。完全に治せる病気ばかりとは限りませんが、少しでも痒みを抑えてあげるような努力が必要なんじゃないでしょうか。 あ。シャンプーした日に病院で耳のチェックをしてもらうと良いかもしれません。水が残っていたら、外耳炎を起こしやすいですから。 |