難波信一書き下ろし
エッセイ
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最近、いつもの散歩コースでよく出会う虫さんがいる。黒くて、ちっちゃくて、忙しそうに動いてる。ひとつの所に固まって、どこかに向かって行進してる。せっせ、せっせと何かを運んでいるようだ。ボクがこの虫さんを見かけ始めたのは、春になってからだった。何日か経つと、違うところで集会をして、同じようにどこかに向かって行進してる。そう、ボクがよく出会うようになった虫さんは「アリさん」。「何でここに昆虫の話が出てくるんだ?」と思うかもしれないけど、実はこの「アリさん」が、ボクの病気と深〜く関係していたんだ。
ボクは毎日同じコースを散歩する。ある日、集会を開いているアリさんに出会った。 アリさんA「ここの土は、何だか甘〜い臭いがするんだよな。。。」 アリさんB「ちょっと変なニオイがするけど、ま、いっか。」 チーボー「ねぇねぇ、この甘いニオイなんなの?」 アリさんB「な、な、なんだよ。俺たちの仕事じゃますんなよぉ。」 チーボー「邪魔しないよ。ふーん、これがアリさんの仕事なんだ。」 アリさんA「そうだぜ。俺たちの仕事さ。。。ん! んん!? あん??」 アリさんB「あ。お前の体から、ここのニオイと同じニオイがするぜ。」 チーボー「ボクぅ? そんなはずは、、、ん! んん!!」 アリさんA「絶対そうだよ。でも何で甘いニオイがするんだぁ??」 チーボー「ホントだ。同じニオイがする。でも何でだぁ?」 アリさんB「おうおう、俺達ゃ忙しいんだ。ちょっくら、そこどいてくんな。」 チーボー「あ。ゴメン、ゴメン。」
これをきっかけにボクとアリさんは挨拶するようになった。ある日アリさんが言った。 アリさんA「おう、そう言えばチーボー、ちょっと痩せたんじゃねーか?」 アリさんB「うん。そう言えばねぇ。。。病院に連れて行ってもらった方がいいぜ。」 チーボー「最近何だか、すぐ疲れちゃうし、ガブガブ水を飲んでもオシッコでジャーって全部出ちゃうんだ。」 アリさんA「ちょっと具合悪い格好してみな。きっと連れて行ってくれるぜ。」
かくしてボクは動物病院に連れて行ってもらった。 先生はボクを一目見るなり、「どしたの? チーボー。こーんなに痩せちゃって。前は肥満体だったのになぁ。。。これはちゃんと調べた方が良さそうだぞ。」って言いながら、身体検査して、血を採って、オシッコ採って、ぜーんぶ検査してもらった。ただボクとしては、アリさんと仲良くなった理由が知りたかった。 検査の結果が出た。病名は「糖尿病」だった。 ボクの血糖値は、機械で測れないくらい上がってて、オシッコには糖分が出ているらしく、先生は色の変わった検査の紙を見せてくれたけど、よく分からなかった。とにかくオシッコに糖が出ているので、ボクのオシッコは甘いらしい。そこでボクはやっと分かった。「ボクのオシッコは甘い→アリさんは甘いものが好き→アリさんはボクのオシッコが好き。」なーるほどぉ。。。なんて納得していたら、先生が「じゃぁ、入院しながら治療しようね。」って言いながらボクを入院室に連れて行った。すぐに治って帰れるのかと思っていたら大間違い。入院して1時間ごとに、ちょびっとだけ血を採って血糖値を測る。血糖値があまりにも高すぎて、機械で測れないことが何回か続いた。だんだんお腹は減ってくるし、何回も血を採られるから、だんだん不安になってきた。やっとご飯が食べられたのは、入院してから8時間後の事だった。それまでは血を採っているだけだったのに、ほそーい針のついた注射器で「インスリン」という薬を首の所にチクン。それが終わるとご飯の時間だった。またこのご飯がマズイったらありゃしない。「糖尿病には低カロリーの食餌が原則!!」って看護士さんに言われた。でも注射を打って、マズイご飯を食べていたら、だんだんお腹が減ってきて、最後には「このご飯もなかなかいけるじゃん。」と思えるようになった。 何日か入院して、何回も何回も血糖値を測られた。先生と看護士さんはボクの血糖値をグラフにして「血糖値曲線(けっとうちきょくせん)」というのを書いているらしい。時々それを見せてくれるんだけど、残念ながらよく分からない。そうこうしているうちに、ご飯をおいしく食べられるようになった。疲れやすいのもなくなったし、オシッコの出方も普通になった。その頃から看護士さんと一緒に元気いっぱい朝晩の散歩に出かけられるようになった。ある日、こないだのアリさんに出会った。 アリさんA「よぉ、チーボーじゃねぇか。」 チーボー「あっ、アリさん。」 アリさんB「最近、甘い液が落っこちてなくて、苦労してるんだよ。」 チーボー「あのね、あのね、甘い液の事なんだけど、実はあれボクのオシッコだったんだ。」 アリさんA「何だって!?」 チーボー「ボクね、『糖尿病』だったんだ。でね、オシッコの中に糖が出てたんだって。だからボクのオシッコが甘くてアリさん達が集まってたっていう訳なんだ。」 アリさんB「えーっ、チーボーのオシッコだったんだ。。。」 アリさんA「ま、糖分に変わりはないし、俺たちにゃぁ関係ないね。」 チーボー「今ね、治してもらってるから、ボクのオシッコ甘くないんだ。」 アリさんB「ま、今年はチーボーのオシッコのお陰で、冬支度が終わってるし、寒くなったら暖かい穴の中で暮らすのさ。」 チーボー「今度の春は、きっとボクのオシッコ役に立てないと思うから、他のものを探してね。」 アリさんA「おう。今年はありがとな。助かったよ。春までには病気治しとけよな。」 チーボー「ありがと。またね。」 アリさんAB「おう、またな。」 アリさん達は帰っていきました。 ボクは退院して、今はお父さんやお母さんに『インスリン』を打ってもらっている。 ご飯は最初、美味しくないと思ってたヤツだけど、今は美味しく食べている。 ノドが渇くのも治まったし、オシッコがジャージャーでるのも普通になった。 糖尿病のお陰で、ちょっと目が見えにくくなったけど、『まぁまぁ』ってとこかな。 そうだ。目のことも忘れちゃいけない。すぐ疲れちゃうようになった頃から、物を見る時に焦点がぼやけてしまうようになっていた。これは先生に聞いたんだけど、「糖尿病になると白内障が進行しやすいから、目が見えにくくなる。」んだって。ボクの場合はまだ大丈夫らしいけど。もしあの時、病院に連れてきてもらわなかったら、目の中の水晶体って所がだんだん白くなっちゃって、最後にはなーんにも見えなくなるんだって。怖い、コワイ。 【診察した獣医さんからのコメント】 水をガブガブ飲んで、オシッコがたくさん出る病気には色々あります。チーボーの場合には糖尿病でしたが、他には副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、尿崩症、避妊していない雌の場合は子宮蓄膿症などがあります。チーボーも書いていましたが、糖尿病の場合、1時間とか2時間毎に血糖値を測って、血糖値曲線を書きます。これは1日の血糖値がどう動いているかを知るために行います。それによって注射するインスリンの量や回数を決めます。新しい検査として、『フルクトサミン』という項目がありますが、これを測って分かるのは、ここ7日〜10日間の血糖値がどのように変化したかと言う事です。これらの検査は単独で行う事もあれば、組み合わせて行う事もあります。その子その子によって異なります。 一度、ワンちゃんが糖尿病になってしまうと、病気と長く付き合わなければならなくなります。普段からの予防が大切なのは当たり前ですが、もしも運悪く糖尿病になってしまったら、根気よくワンちゃんをケアしてあげてください。 それから検査せずにインスリンを打っていると、血糖値が下がりすぎてワンちゃんがケイレンを起こしてしまう事があります。ですから面倒くさがらずに、こまめに検査しながらインスリンを調節してもらってくださいね。 |