エッセイ
2003年01月13日


下痢なんですけど・・・


「下痢」という言葉には色々な意味があります。飼い主さんによって、ちょっとでもウンチがゆるくなると「下痢です。」と言われる方もいますし、「軟便です。」と言われて診察してみると「水みたいな下痢」を指すこともあります。このように一口に「下痢」と言っても意味していることは飼い主さんによって様々です。また原因だけで下痢の「ヒドさ」が決まることは少ないもので、原因が同じでも病気の進行具合によって程度は様々です。
ウンチが軟らかくなってしまったら、病院へ行く前にちょっと次のことを思い出してみて下さい。治療の助けになることがあります。
・ 待てよ、昨日何かいつもと違うものを食べたっけ?
「ホンの少しだから動物病院で言わなくて良いだろう。」は良くありません。
ホンの少しでも下痢を起こすものがあります。例えばタマネギやいつもより多い脂身などです。
・ いつも2-3日下痢して放っておいても治ってるけど、今回は4日目だなぁ。
「前のことは言わなくてもいいや。4日前からって言うことにしておこう。」は良くありません。
良いウンチと悪いウンチを繰り返すことは、診断や治療を行う上で大切な情報になります。
・ ウンチ、捨てちゃったなぁ。まぁ、いいや。
「ウンチ、持って行かなくても良いかなぁ。」はできるだけ避けて、できるだけ持って行きましょう。
下痢しているウンチは一番大切な情報源になります。お腹の虫だけではなくて、出てきている細胞や細菌が雄弁に物語ってくれることがあります。水のような下痢はティッシュに染み込ませてから袋に入れて持って来ることができます。これだけでも大きな手がかりになることがあります。

胃腸管内寄生虫は子犬の下痢の原因として最も多いものの一つです。パッと思いつくものに「回虫(かいちゅう)」があると思いますが、その他に「鞭虫(べんちゅう)」「鉤虫(こうちゅう)」「条虫(じょうちゅう):俗名サナダムシ」「糞線虫(ふんせんちゅう)」「コクシジウム」「ジアルジア」「トリコモナス」などがあります。私が獣医師になりたての15年前頃はたくさんの虫を見たものですが、今では衛生状態が良くなったお陰で前ほど見なくなりました。ところが、コクシジウム、ジアルジアと言ったカタカナで書いてある名前の虫、これは原虫と言って簡単な検便では見つからないことが多い虫になります。また漢字で書いてある虫は駆虫剤(獣医さんで処方する虫下し)で治療するのが比較的簡単ですが、これらカタカナの名前の虫たちは治療に長い時間が必要となったり、治りにくかったりすることがあります。よく『「蟯虫(ぎょうちゅう)」の検査をして下さい。』と言って来られる飼い主さんがいますが、犬に蟯虫はみられません。
 ちょっと横道にそれますが。。。最近、インターネットからの情報を鵜呑みにして来られる飼い主さんが多くなりました。情報量が多くなることは良いことなんですが、中には間違った情報も多く見られます。インターネットからの情報が必ずしも正しいとは限りません。例えば、先ほどの「蟯虫(ぎょうちゅう)」ですが、検索してみると結構出てきます。それもまことしやかに(苦笑)。文章を読んでいると恐らく「条虫(じょうちゅう):俗名サナダムシ」の事だと思いますが、発音は似ているものの全く違う虫の事ですので、気をつけましょう。この他「フィラリア」を「フェラリア」、「ジステンパー」を「ジフテリア」と言われる飼い主さんも多いです(^_^)/。

ストレス・風邪が原因の下痢?? 確かにワンちゃんに明らかなストレス「引っ越した」「他に動物を飼い始めた」「急に寒くなった」等々、明らかにストレスが原因で下痢を起こすこともあります。ここで!! 考えてみましょう。1)ホントに健康なのに、これらの原因だけで下痢を起こしてしまった場合もあれば、2)ホントは下痢する原因が元々あったので、これらが引き金になってしまった場合があります。1)の場合には、簡単な治療をすれば、もしくは放っておいても下痢が止まってしまうこともあります。2)の場合にはそうはいきません。元々下痢の原因、例えば子犬のパルボウイルス感染症という出血性胃腸炎を起こす怖い病気がありますが、この感染症があっても身体の抵抗力が勝っていれば下痢を起こすことはありません。ここにコクシジウムという原虫が感染したとします(ここ何年かこのパターンが多い)。コクシジウムでも出血性腸炎を起こすことがありますので、コクシジウムの治療を始めます。ところが一向に良くならないので、パルボウイルスの検査をしたら陽性、つまり感染していたことが分かったという患者さんが多くなっています。パルボウイルスは日本で初めて発生して約25年になりますが、ワンちゃん達が抵抗力を持ってきたので、患者さんの数は少なくなっています。ところが、ワンちゃんの抵抗力を低くしてしまう引き金、コクシジウムや環境の変化などによって発症してしまいます。これはワンちゃんの抵抗力がウイルスに負けた事を意味します。こうなると薬で手助けしてあげるしか他に方法はありません。ですからワンちゃんと一緒に住み始めてからの1-2週間というのは、「住むところが変わった:環境の変化」「遊ぶ相手が変わって疲れるようになった:体力・抵抗力の低下」などという大きな変化がある時期なので、できるだけ安静に努めた方が良いと思います。また子犬の下痢は命に関わることがありますので、早め早めで動物病院に連れて行くことをお勧めしておきます。

免疫介在性腸疾患(めんえきかいざいせいちょうしっかん)という難しい名前の病気があります。これはアレルギーと同様に、最近になって発生が多くなったように感じます。普段、私たち人間を含めた哺乳類の身体は外からの侵入者、細菌や花粉などを排除するように働きます。これはあくまでも「自分の身体は攻撃しない」という前提のもとに成り立っているシステムです。花粉が鼻から侵入すると、くしゃみや鼻水で追い出そうとします。これは正常な反応です。あ。花粉症はちょっと違います。花粉症の場合は花粉に対して過剰に反応することを指しますので、間違えないようにして下さい。さて、免疫介在性腸疾患の場合、ある日ある時を境に自分の腸を自分自身で攻撃し始めるようになります。その結果、起こさなくても良いのに腸に炎症を起こして、下痢が始まることになります。この場合は通常の下痢の治療では反応しませんので、特別な治療を行うことになります。そこで出てくるのが「免疫抑制剤(めんえきよくせいざい)」という薬です。これは過敏に反応しすぎる身体の抵抗力を下げて鈍感にしてあげようと言う薬です。これを使うことで自分自身への攻撃が少なくなって、症状が良くなります。ところが、外から入ってきた侵入者に対しても鈍感になりますので、注意して使う必要があります。

下痢を悪化させるものとして、ホントに良く聞くのが「牛乳」です。診療していると「先生、下痢になったから栄養つけなきゃイケナイと思って牛乳のませてるんですけど。。。」これは地域差もあるとは思いますが、非常に良く聞く言葉です。いつものやりとりは決まっています。
「あのー、あなたが下痢してるときに牛乳飲みますか?」
「・・・あっ・・・」
「でしょう。下痢しているときに牛乳を飲ませると、悪くなっちゃうんですねー(^_^)/」
「下痢したときには、1-2日絶食するか、繊維分の多いフードを食べさせてみて下さいね。」
炎症を起こしている腸に食べ物がどんどん入ってくると働き続けで治るヒマがありませんから、絶食も大切な治療補助になります。ところがワンちゃんによっては、「どうしても食べたい!!」という子がいます。その場合には診察を受けてから繊維分の多いフードを処方してもらってください。

下痢と言えども命に関わることがあります。原因や状態によってはすぐに治療が必要なことや治療しながら時間をかけないと診断できないことがありますので、早めに動物病院に行って獣医さんと良くお話ししてくださいね。
付記として「下痢:小腸vs大腸」をつけておきます。

小腸が原因の下痢:
ウンチの量が多い
回数は普通
普通のウンチが柔らかくなったような感じ
大腸が原因の下痢
    ウンチの量が少ない
        回数が多い
        水みたいなウンチ(水様便)、または粘液が混じることあり