エッセイ
2002年11月03日


ホルモンの病気?
難しい名前の病気2


 原発性甲状腺機能低下症

9月11日。ニューヨークで、あの忌まわしいテロ事件から明日で丸1年。日本のメディアでもこの話題でもちきりです。実は明日が9月11日なんですが、事もあろうに渡米して12日から始まるアメリカ獣医癌学会に出席するんです。ちなみに開催地は、これまたニューヨークです(苦笑)。別に選んでこの日に渡米するわけではないんですが、いつもの渡航と少しだけ感じが違います。何もないことを祈っておいてくださいね。と言ってもこの雑誌が発行されている頃には日本にいる予定ですが。。。
さてニューヨークというとこの紙面でも何回か紹介したアニマル・メディカル・センターというすばらしい病院があります。先日来日してくれたDr.Mark PetersonやDr.Phil Bergmanが勤務している病院です。癌学会がニューヨークであることから、Dr.Mark Petersonに「来てみれば?」と言われたので、「行く!!」事になりました。その時のお話は後日紹介するとして。。。
今回は前回に引き続き、内分泌病の専門医Dr.Mark Petersonにちなんで、漢字がたくさん出てきて理解しにくそうな病気の第二弾として「甲状腺機能低下症」についてお話ししたいと思います。

鈴木さんちのビッグくんは、去勢が済んでいる3歳、オスの雑種です。室内飼育で、タフィーちゃんと同じく予防関係はバッチリ、ドッグフード中心、たまにお父さんにワンちゃん用のおやつをもらうくらいです。最近、若いのにダラダラしていて活発でなくなり、食べないわけではないけれど、何だか義務のように食べています。それなのに体つきはズングリムックリと太ってきたような気がします。おまけにシッポの毛が寂しくなってきました。おっとりしているのは変わらないんですが、顔つきがコワイ顔にもなってきました。最初は様子を見ていた鈴木さん、お腹の両脇の毛が抜けてきた時点で、さすがに怖くなって動物病院に行くことにしました。

獣医さん「をを。ビッグじゃないの。随分太っちゃったねー。。。」
鈴木さん「はぁ。何だか若いのに元気がないんですよ。食も細くなっちゃってねぇ。その割にブクブク太ってるんですよ。。。」
獣医さん「うーん、ちょっと診ただけでは分からないんですけど。。。ありゃ、シッポの毛が寂しくなってるし、お腹の脇っちょも毛が抜けてきてるねぇ。」
鈴木さん「そうなんですよ。毛が抜けちゃってね、素人考えには皮膚病って思って連れてきたんですよ。そうは言っても特に掻いているわけじゃぁないし。。。何なんでしょう?」
獣医さん「色々と考えることがあるんですよ、こういう場合。ノミの駆除の薬は・・・ちゃんと付けてますよね。」
鈴木さん「もちろんです。ノミの薬は付けてます。」
獣医さん「分かりました。順番に検査してみましょう。まず皮膚の表面から材料を取って、細菌の検査をします。それから真菌と言ってカビの検査をします。引っ掻いてダニ類の検査もしましょう。」
鈴木さん「いやぁ、皮膚病の検査ってたくさんあるんですね。」
獣医さん「そうですね。でも中にはホルモンの異常で毛が抜けてしまうこともあるんですよ。」
鈴木さん「じゃぁ、検査をお願いします。そうだ。元気もなくて、ブクブク太るのっていうのは体質でしょうかねぇ?」
獣医さん「まずは順番にやっていきましょう。」

と言う訳で、検査結果を待つために何も薬を飲まず1週間が経ちました。もちろんビッグくんの状態は全く変わりません。
獣医さん「よぉ、ビッグ。検査したけど、何も出なかったぞ。次の検査に移るからな。。。鈴木さん、全く異常がなかったんですよ。ですから、ホルモンの関係を疑って検査を進めていいですか?」
鈴木さん「もちろんです!! 頑張ろうな、ビッグ!!」
ビッグ「くぅ〜ん。。(はぁ。。。)」
それからビッグは血液検査をすることになりました。検査の中にはビッグの症状から一番疑われる「甲状腺ホルモン」の検査も入っていました。一般の血液検査ではコレステロールが異常に高い数字でした。それから甲状腺ホルモンは正常からかけ離れて低いと言うことが分かりました。獣医さんは鈴木さんに了解を取って診断を確認するための検査「遊離甲状腺ホルモン(専門的な言葉で『遊離T4』)の検査をしましたが、やっぱり低い結果が出ました。
獣医さん「鈴木さん、ビッグは「甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)」と言う病気です。」
鈴木さん「はぁ?? 何ですかそれ??」
獣医さん「この病気はワンちゃん、中でも中型犬から大型犬にみられる病気なんです。ちょっと話がややっこしくなりますから、分からなかったら途中で言って下さいね。」
鈴木さん「分かりました。」
獣医さん「甲状腺ホルモンというのは、いわゆる活力を出すホルモンなんです。」
鈴木さん「ほぉ。」
獣医さん「この甲状腺ホルモンは、ノドの所にある甲状腺という部分から出るんです。ところが何らかの理由で甲状腺ホルモンが出にくくなると言う病気があるんです。するとどうでしょう? ワンちゃんは『よっしゃ!! やったるぜ!!』という気持ちが沸かなくなります。いつもダラ〜っとしていて、『ま、いっか。。。』っていう雰囲気になります。それと共に体の中の細胞もだらけてしまって、太ることになりますが、単に太っているだけじゃなく、『むくみ』が出てきちゃうんですよ。それでコワイ顔になることがあるんです。」
鈴木さん「だから、コワイ顔になっちゃったんだ。」
獣医さん「反対に『甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)』は、甲状腺ホルモンが出過ぎるので、『やるぜ!! やるぜ!! 俺はやるぜ!!』という状態になるので、食べても食べても太れないんですよ。ウンチもモリモリ出るんです。」
鈴木さん「そっか。。。食べないし、ウンチも少ないのは、そういう訳か。。。」
獣医さん「幸い、皮膚に感染症もないし、甲状腺ホルモンで治療を始めましょう!! ただ、一つだけ言わなきゃいけない事があるんです。」
鈴木さん「ほぉ。。。」
獣医さん「この若さにしてホルモンが出なくなっちゃったので、一生、ホルモンを飲ませなきゃならないワンちゃんがほとんどなので頑張ってくださいね。」
鈴木さん「い、い、一生ですかぁ??」
獣医さん「そうなんです。残念ながら。。。」
鈴木さん「おい、ビッグ!! 頑張れるか??」
ビッグ「くぅ〜ん。。(はぁ。。。)」

と言う訳で甲状腺ホルモンを飲むことになったビッグくん。1ヶ月後に会うことができました。
獣医さん「おぉ、ビッグじゃないかぁ。ちょっとスリムになって、シッポとお腹の脇っちょの毛、生えたなぁ。」
鈴木さん「いやぁ、先生。前のビッグに戻りました!! 薬も飲んでくれるし、生き生きしてるし、毛も生えたし、言うことないです!!」
獣医さん「良かったですね。頑張ってお薬を続けましょうね。それから時々検査して、ホルモンを多くやりすぎないように調節しないとね。」
鈴木さん「会社から帰ってくると迎えに来てくれるのが嬉しくってね。なぁ、ビッグ!!」
ビッグ「ワンッ!!」

治療前                      治療後

【診察した獣医さんからのコメント】
 甲状腺機能低下症は、若齢から中齢(2-5歳)のワンちゃんに比較的多くみられる病気です。普段一緒に生活していて「何となく活発じゃない。」「若いのに老けてる。」「そんなに食べないのに太ってる。」などと感じたら、まず動物病院に行って検査してもらった方が良いかもしれません。ビッグのように脱毛がみられることもありますが、「何となく変」というのが、この病気の始まりです。薬を一生涯飲ませることがほとんどですが、飲ませ始めると前と同じようなワンちゃんに戻ってくれます。また薬を中止すると元の状態に戻ってしまいますので、気をつけましょう。
 あまり『病気、病気』した状態ではないので、とかく病院に連れて行くのが億劫になりますが、『何だか変』と思ったら行ってみて安心した方が良いと思います。もし『何でもなければ、それで良し。』ですね。
<つづく>