エッセイ
2002年08月12日


ホルモンの病気?
難しい名前の病気1


昨日、アメリカ・ニューヨークにある世界最大、診療レベルも世界最高峰のアニマル・メディカル・センター(The Animal Medical Center)から副院長であり、内分泌病専門医でもあるDr.Mark Petersonが来日され、獣医師向けに講演をしてくれました。前回の来日講演から1年半しか経っていなかったので、「いくら学問の進歩が速いからと言って、そんなに進歩したわけではないだろうに。」と思いながら通訳していると、次々に新しい事実が発見されていたり、研究が進んでいたりと驚きの連続でした。という訳で、ここでは最新情報をちりばめながら、内分泌病について分かり易く解説してみたいと思います。
内分泌病(ないぶんぴびょう)と言うのは、耳慣れない言葉かもしれませんが、簡単に言うと「体の中のホルモンに関係する病気」と言うことができます。一口に「ホルモン」と言っても男性ホルモンや女性ホルモンだけではなく、副腎ホルモンや甲状腺ホルモンなどがあります。これらのホルモンは脳と密接な関係を保ちながらバランスを取っています。このバランスが一度崩れると重大な症状を引き起こすことになります。それではワンちゃんに多い内分泌病の代表格、副腎皮質機能亢進症(ふくじんひしつきのうこうしんしょう)と甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)について説明してみましょう。

加藤さんちのタフィーちゃんは、避妊手術していない10歳、メスのプードルです。室内飼育で予防関係はバッチリ、ドッグフード中心の食事です。どうやら身体の毛が薄くなって来ている事が気になるようです。
タフィー「ねぇねぇ、私ったら毛が薄くなって来ちゃったんだけど。。。恥ずかしくてお散歩できないわ。」
加藤さん「あらっ、そう言われるとそうねぇ。。。あなた食べ過ぎじゃない?? それに水も飲みすぎ。どこか悪いんじゃないの??」
タフィー「だって、お腹は減るし、喉だって渇くんだもの。。。仕方ないじゃない。」
加藤さん「ねぇ、どこか痛いとか、苦しいってことないの??」
タフィー「別に。。。」
加藤さん「まぁ、心配だから動物病院に行ってみる?? 一度診てもらった方が良いと思うわよ。」
タフィー「そうねぇ・・・、病院はイヤだけど行ってみることにするわ。」
斯くして、加藤さんとタフィーちゃんは動物病院に行ったのでした。

獣医さん「タフィーちゃん、どうしたのかな??」
加藤さん「いえね、うちの子が『毛が薄くなってきた』って気にしているものですから、何か病気があるといけないと思って来てみたんですよ。」
獣医さん「いつもと違う所はありますか、例えば食欲がないとか、元気がないとか、吐き気があるとか、下痢しているとか。。。」
加藤さん「そう言うのは特にないんですけど、やたらと水を飲んでオシッコを大量にするんです。それから食欲が異常にあって、いつもお腹が空いているみたいなんですよ。」
獣医さん「そうですか。。。それならば検査をしてみた方が良いでしょう。」
加藤さん「え゛っ、病気ですかぁ??」
獣医さん「同じような症状の病気がたくさんありますから、何の病気なのか確認してみましょう。」

それからタフィーちゃんは血液検査、尿検査、レントゲン検査を受けました。
獣医さん「加藤さん、タフィーちゃんはホルモンの検査をする必要が出てきました。この検査は「検査薬」を注射する前後でホルモンを測る方法で、検査センターに血液を送って検査してもらいます。場合によってはもう一つ二つ検査をして確認しなければなりません。」
加藤さん「分かりました。原因をしっかり突き止めて、ちゃんと治さないとね、タフィー!!」
タフィー「ワン(了解)!!」

何日かして検査結果が返ってきたようです。
獣医さん「検査の結果から、『下垂体性・副腎皮質・機能亢進症(かすいたいせい・ふくじんひしつ・きのうこうしんしょう)』と診断しました。この病気を理解するのは、ちょっと難しくなりますが、頑張って聞いてください。脳の下には下垂体というところがあります。また腎臓の頭側には副腎(ふくじん)というところがあります。下垂体から出るホルモンの一つにACTHというのがあって副腎を刺激します。刺激された副腎はコルチゾールというホルモンを出します。タフィーちゃんの場合、検査の結果からACTHがたくさん出すぎることによって、副腎からのコルチゾールがたくさん出てしまっていて、それが続くことで副腎が大きくなってしまっているんです。それが原因で毛が薄くなったり、食欲が異常に出たり、水をたくさん飲んでオシッコがたくさん出るという症状が出ているんです。」
加藤さん「・・・う〜ん、難しいですね。何となくは分かりますけど。。。」
獣医さん「簡単に言うと下垂体というところに腫瘍ができてしまって、ホルモンのコントロールがうまくいかなくなっているんですよ。」
加藤さん「あらぁ〜、腫瘍ですか。。。で、どうやってその下垂体とやらを治すんですか?」
獣医さん「この病気になると、下垂体に問題があるんですけど、副腎を治療します。下垂体は頭蓋骨の中の脳の下側に付いているので、これを治すことはできません。いや、放射線を当てて治療することもありますが、ほとんどの場合、副腎を治療するんです。薬を使って、コルチゾールというホルモンが出る部分を壊すんです。そうすると毛も生えてきますし、水をたくさん飲んだり、オシッコがたくさん出たりという症状が治まります。ただ言っておかなければいけないんですが、治療をしてもしなくても生きられる期間には影響しないことが分かっていますので、飼い主さんが治したいかどうかで治療するかどうかが決まります。」
加藤さん「・・・毛が薄いのはどっちでも良いけど、オシッコがねぇ・・・治療を受けます。」
獣医さん「ちょっと強い薬になりますから、食欲がちょっとでも落ちたら連絡してくださいね。」
加藤さん「分かりました。食欲、食欲ですね。タフィー!! 頑張るわよっ!!」
タフィー「ワン(了解)!!」

と言うわけでタフィーちゃんは治療することになりました。治療を始めて3ヶ月後、見違えるようになりました。但し、毛の色が元の色よりもちょっと濃くなっちゃいましたけど、水を飲む量、食餌の量、オシッコの量は普通に戻りました。今後は薬を週に2回くらい飲んで維持することになりました。

 <治療前> <治療後>

【診察した獣医さんからのコメント】
タフィーちゃんは「下垂体依存性副腎皮質機能亢進症(下垂体依存性クッシング症候群とも言う)」という病気でした。この病気は歳を取ったワンちゃんに比較的多いもので、プードル、ダックスフンド、ボストン・テリア、ボクサー、ビーグルに多い傾向があります。またこのタイプ(下垂体性)の「副腎皮質機能亢進症」は小型犬に多く、もう一つのタイプ「副腎腫瘍による副腎皮質機能亢進症」は大型犬に多く診られます。症状はタフィーちゃんを参考にしてもらうと良いと思いますが、その他に「ポットベリー」といって「太鼓腹」のような体つきになるのが代表的な症状です。下垂体に腫瘍ができてしまった場合、放射線を当てる治療もできますが、実施できる施設が少ないことと放射線を当てた方が絶対に良いと言うことが、まだはっきりしていませんので、大きくなってしまった副腎を小さくする方法を使います。これには副腎を壊す薬を使うのがオーソドックスです。また副腎に腫瘍ができた場合には、条件さえ整えば手術で取ってしまうこともあります。とにかく副腎からコルチゾールが出過ぎるのを抑えてやるわけです。
先ほども出ていましたが、「下垂体依存性副腎皮質機能亢進症」の場合は、治療してもしなくても生きられる長さは変わりません。あくまでも平均ですが、2-3年と言われています。これは下垂体の腫瘍自体が悪さをし始めるので、こうなると症状の進行を止めることはできません。ですから、治療をするかどうかは飼い主さん次第ということができます。間違えないで下さいね、「副腎腫瘍による副腎皮質機能亢進症」は腫瘍のある副腎を取ると治ることがありますから。いずれにしても掛かり付けの先生にしっかりと診断してもらうことが大切です。

<つづく>