エッセイ
2002年07月05日
動物病院ウォーズ
エピソード3:良い情報の見分け方??
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最近、ネット上で「どこそこは良い動物病院で、どこそこは悪い動物病院」などと書かれた文章を目にします。また「あなたの飼い方は、ワンちゃんを不幸にする。」などと、結構キツイ書き込みのある掲示板があります。挙げ句の果てには、掲示板の上で飼い主さん同士が「その症状は、○×っていう病気じゃない??」などと話している事まであります。インターネットが普及して情報交換が簡単になった反面、根も葉もない理論が展開されていたり、一部の方の価値観が正しくて、その他の価値観は間違っている的な様相を呈しているのが現実です。本当にこれで良いんでしょうか??
タロウ君は室外飼育、飼い主さんの残り物が食べ物です。雨が降ると犬小屋はちょっと雨漏りします。 ジロウ君、昼は庭で放し飼い、夜は室内で寝ています。ドッグフードだけが食べ物です。 サブロウ君は室内飼育です。一日に15分くらい散歩します。食事はドッグフードに野菜を混ぜてもらっています。 ハナコちゃんは完全室内飼育で、散歩には行きません。食事は肉中心で野菜を混ぜてもらっています。
ハナコちゃんの飼い主さんは、タロウ君、ジロウ君、サブロウ君の飼い方を見て、飼い主さん達を非難します。「まぁ、かわいそうな飼い方!! ワンちゃんだって、家族の一員でしょ!! 信じられないわ!!」 同じようにサブロウ君の飼い主さん「もっと食事に気を使ってあげないとかわいそうよ!! 肉と野菜でもダメよ!! 一番信じられないのは、散歩に連れて行かないって事よ!!」 ジロウ君の飼い主さん「ワンちゃんだって自由に走り回りたいのに、繋いだり、散歩に連れて行かないなんて信じられない。食事だってドッグフードだけが一番健康にいいのよ。」 タロウ君の飼い主さん「犬はね、昔から人間様の残飯を食べて生きてきたのよ。うちのは番犬だからこれで良いの。」
四人の飼い主さんとも言い分が違います。これを読んでいる読者の皆さんにも違う意見をお持ちの方がいらっしゃると思います。私からみると色々な価値観の飼い主さんがいて当然だと思いますし、誰も間違った飼い方をしているとは思えません。こう書くと、最近の風潮から「いくら何でもタロウ君の飼い主さんは、ひどいすぎるんじゃない??」と言われる方が多いと思います。果たしてそうでしょうか?? 飼い方が違っていても共通することがあります。それはここに出てきたワンちゃん達は、みんな揃って、いつも飼い主さんに会いたがっていると言うことです。つまり食事の時、散歩の時、帰ってきた時、みんなちぎれんばかりにシッポを振ってくれます。それぞれ環境は違えど、飼い主さんを好きなことに変わりはありません。テレビを見ていると、人間でさえ食べるのに苦労している国々が世界には沢山あります。そこに出てくるワンちゃんはガリガリに痩せていますが、シッポを振りながら飼い主、いや共存している人間に寄ってきます。少ない食事を共有するようにワンちゃんに与えています。決してドッグフードなどワンちゃんの栄養を考えた食事ではありません。でも嬉しそうにシッポを振っています。これはテレビでよく観る光景ですよね。「この事から何を学ぶか??」飼われているワンちゃんにも様々な環境があるように、飼い主さんにも様々な環境や事情があります。環境や事情を整えた上でワンちゃんを飼うことが一番良いのは誰しもが知っていることです。ところが、「よし、ワンちゃんを飼えそうだから飼おう!!」と飼い始めたものの、「予防注射」「フィラリア予防」「病気の治療費」等、思ってもみなかった出費がかかってしまったとします。するとなかなか予防もできないとか病気になっても病院になかなか連れて行けないと言う状況が起こってきます。このような場合、「ワンちゃんを理想的に飼う」という点からは遠くかけ離れていると思いますし、「飼い主さんになるにはもっと勉強してからの方が良かった」とも言えるでしょう。でも、この飼い主さんが「ワンちゃんを飼って可愛がってあげたい」と思う純粋でやさしい気持ちを誰も止めることはできませんし、飼い方についての非難などできるはずもありません。非難する方々の多くはワンちゃんの立場に立って色々と言ってらっしゃるんだと思いますが、飼い主さんとワンちゃん両方を考える必要があると思っています。どうか、色々な状況で飼っている飼い主さんと飼われているワンちゃんの事を考えて、優しい気持ちになってほしいと思っています。 もちろん「明日から、それと同じようにした方が良い。」と言っているわけではありません。ご自分の飼い方がご自分のワンちゃんにとって「一番良い飼い方」だと思われている方や、そうしようと努力されている方は、大変すばらしいことだと思います。色々な所、インターネット上や待合室でさえこのような光景を目にしますが、他の人の飼い方を非難するのはどうかと思います。別に「食べるのに苦労している国と同じ飼い方をして下さい。」と言っているわけではなく、前述した4人の飼い主さんの飼い方について、食事の面、しつけの面から「もうちょっとこうした方が良いと思いますよ=健康で長生きできる可能性が高くなりますよ。」というアドバイスは獣医師としてできますが、非難したり、否定することはできないと思っています。 以前にも書きましたが、「ワンちゃんの食事は一日に何回与えなきゃいけない。」と決めつける方々がいますが、「人間は何回食べなきゃイケナイ。」んでしょうか?? ちなみに私は昼と夜の二食です。間違ってます(苦笑)??
話は変わって、「良い動物病院・悪い動物病院」のお話しです。 まずこれって誰が、何の判断基準を基に決めたんでしょうか?? よく言われているのは、「値段が高い=悪い病院」「値段が安い=良い病院」「値段は安いけど治らない病院=悪い病院」「値段は高いけど治る病院=良い病院」「ぶっきらぼうな動物病院=悪い病院」「言葉遣いの丁寧で優しい病院=良い病院」などなど、飼い主さんによって色々な判断基準があると思います。世間ではまことしやかに「良い動物病院の見分け方」なる話が取り沙汰されています。では「悪い」と世間で言われている動物病院に患者さんは来ないのでしょうか?? 来ている患者さんは全部ダマされているんでしょうか?? もちろん違いますよね。要は飼い主さんご自身が「信頼できる動物病院」ならどこでも「良い病院」なワケです。きっかけは、「人から聞いた評判が良いから」「近いから」「設備が整っているから」「獣医師とウマが合うから」等なんでも良いんです。例えば、獣医師の目から見ても「あそこの先生は手術がすごく上手」と思う先生の所でも、「あそこの先生とはウマが合わない=悪い病院」という飼い主さんもいれば、「あそこの先生とウマは合わないけれど信頼できる=良い病院」という飼い主さんもいます。全く正反対の二通りの解釈があるわけです。 「値段が安い=良い病院」「値段が高い=悪い病院」という構図はディスカウント社会が生んだ歪みとも言えるでしょう。例えば、A動物病院の院長は「できるだけ飼い主さんの負担を軽くしてあげたいので、切れない確率70%の安価な糸を使っている。」としましょう。B動物病院の院長は「できるだけワンちゃんの安全を確保するために高価でも99%切れない確率の糸を使っている。」とします。実際のお話しをしますと、手術で使う糸はピンからキリまで価格、材質ともに様々です。もちろん手術代については、A動物病院の方が安価なわけです。飼い主さんの中には、「A動物病院の方が良い。」という方と「B動物病院の方が良い。」という方、両方がいらっしゃると思います。これは飼い主さんの価値観や事情がそれぞれ異なることが原因だと思います。しかし、この二人の飼い主さんにとっては、それぞれの動物病院が「良い病院」になるわけです。「当然でしょ。」と思われている方が多いと思います。という事は「値段が高い=悪い病院」とは限らないわけです。(とは言え、「本当に料金の高い病院」があることは否定できませんが。。。) もちろん獣医師側の方も検査や治療について言葉足らずの場面も多々あることと思いますので、改善していかなければならない点だと考えています。一番難しいのは「一般常識から考えた適正価格とは何??」という事です。事情が同じ家庭でも「1万円で買った犬だから、10万円の手術なんてとんでもない。」という人もいれば、「1万円で買った犬だけど、命はお金には換えられない。」という人もいます。この二人の中での常識の違いは、非常に極端なように思われますが、私たちには日常茶飯事です。このことを踏まえて「一般常識」という言葉を考えるのは非常に難しいことです。 「あそこの病院は、良いわよ〜。」と紹介するのは良しとして、是非、飼い主さん個人個人でも「一般常識」や「価値観」に差があることを理解して頂きたいと切に願っています。
「な〜んだ、良い動物病院の見分け方を教えてくれるんじゃなかったんだ。」と感じられた読者の方がいらっしゃったらショックです(笑)。私は飼い主さんに『こうしなさい』とか、『これをしちゃダメ』というのを極力言わないように気を付けています。もちろん科学的な裏付けがあって『しちゃダメ』な事は『だめ』って言います。ただ獣医師の1人として、また自分を含めて、できるだけ多くの動物病院が「飼い主さんの状況を踏まえながらワンちゃんを診察する」よう心がける事が大切なことだと思っています。
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