エッセイ
2002年06月12日


動物病院ウォーズ
エピソード2:獣医さんの言い分??


動物病院の業種は、残念ながら「医療」ではなく「サービス業」に分類されます。知ってました?? でも病院によっては、内視鏡や超音波、果てはCT、MRI、放射線治療器まで、限りなくヒトの病院に近い動物病院まであります。お医者さんもそうだと思いますが、商売上手な先生から学術一辺倒の先生、はたまたホームドクターから大学病院顔負けの獣医療を行う先生まで様々な獣医師がいますし、それを信頼して来院される飼い主さんも様々です。「良い動物病院知りませんか?」の問いに、一番正しい答えは「あなたにとって一番信頼できる動物病院」だと思います。前置きが長くなりましたが、今回もまた私の病院で実際に起きたエピソードをお届けします。

その1:不信感もほどほどに!!(苦笑)
 サリーちゃん、ミニチュアダックス、3歳、女の子。今日はフィラリアの予防にやってきました。血液を採って検査している時に、飼い主さんから質問されました。
飼い主さん「先生、頭の後ろのところが出っ張ってるんです。散歩で会った人に聞くと、『癌かもしれない』って言われたんです。診てください。」
そう言われた獣医さんは、頭の骨を隅々まで触りました。確かにサリーちゃんの後頭部には出っ張った所がありましたが、それは正常な骨格でした。
獣医さん「これはね、外矢状稜(がいしじょうりょう)という骨で、サリーちゃんの頭の大きさからすると正常だと思いますよ。特に変わった所見もないですし。。。」
飼い主さん「じゃぁ、先生!! 100%癌じゃないって保証できますか?」
獣医さん「へっ?? 100%ですか?? 保証はできません。しかし触った限りでは正常ですよ。」
飼い主さん「どうやったら100%癌じゃないって証明できるんですか?」
獣医さん「どうやってもできません。でもCTとかMRIを撮ってみて、異常がなければ限りなく100%に近づいて、癌じゃないって言えますけど。」
飼い主さん「わかりました。先生を信じます。」
言葉とは裏腹な表情に「むっ!!」としながら診療を終えました。次のフィラリア予防シーズンにサリーちゃんが来ました。
飼い主さん「先生、サリーの頭の骨の出っ張りなんですけど、去年と変わっていないような気がします。今年はこの子のためにインターネットを始めたんですけど、そこでショックなホームページを見てしまいました。。。」
獣医さん「ふむ。どんなホームページですか??」
飼い主さん「頭の骨に骨肉腫って言う癌ができてしまって、死んでしまったワンちゃんの話です。それを見た途端、うちの子が心配で心配で。。。」
獣医さん「やっぱり触っても正常な骨だけどなぁ。。。」
飼い主さん「先生、自分のワンちゃんだったらどうします??」
獣医さん「正常だと思うので、検査しません。」
飼い主さん「そうですか。分かりました。」
いやいや、納得していないのがまる分かりの表情でサリーちゃんと一緒に帰って行きました。
そして1週間後。飼い主さんがサリーちゃんを連れずに病院に来られました。
飼い主さん「先生、失礼なことを言って、どーもすいませーーん。あれから心配だったので、大学病院に行ったんですよ。でね、CTを撮ってもらったんですけど、『正常でしょう』って言われたんです。それで先生に言ったことと同じ事を言ったら、大学の先生の答えも先生と全く同じだったんですよ。」
獣医さん「まぁ、良かったですね。骨肉腫じゃない確率が限りなく0に近づいたんですから。。。そうだ、僕の身体にはそこらじゅうに癌になりかかっている細胞がいるんですよ。」
飼い主さん「えっ、先生癌なんですか??」
獣医さん「いや、そうじゃぁないんですけどね。身体にはね、癌になりかけようとする細胞が必ずあるんです。それをならないように引き留めるような機能が身体には備わっているんです。どうしても制御しきれなかった場合だけ癌細胞が増えちゃうんですよ。」
飼い主さん「そ、そ、そうなんですか??」
獣医さん「ですから、サリーちゃんの身体、いやあなたの身体にも癌細胞になりかけている細胞はあるんですよ。だから以前『100%』って言われた時に、『保証はできません』って言ったんです。」
飼い主さん「・・・そうですか。ビシッと割り切れないものなんですね。何だか、今回の件で疲れちゃいました。。。もう少し気楽にサリーと暮らしてみます。」
獣医さん「頑張ってくださいね。気になったら大学病院に行ってみれば如何です??」
飼い主さん「・・・先生、それって嫌みですか??(苦笑)」
獣医さん「そうです。嫌みです(苦笑)。」
今でもサリーちゃんと飼い主さんは元気にうちの病院に来ています。

その2:固定観念、大嫌い!!
 待合室で飼い主さん同士会話が弾んでいます。どうやら片方の飼い主さんが、もう片方の飼い主さんにワンちゃんの飼い方を講義していました。順番が来て、講義を聞いていた方の飼い主さんが診察室に入ってきました。何となく、飼い主さんの元気がないように見えましたので、話を聞いてみることにしました。
獣医さん「どうしました?? 飼い主さんが元気ないように見えるんですけど。」
飼い主さん「・・・はい。。。さっき待合室でワンちゃんの飼い方を教えてくださった方がいて、その話を聞いていると私の飼い方は間違っている所だらけみたいでショックです。。。」
獣医さん「ほぉ、どこが間違っていると言われたんですか?」
飼い主さん「うちは食餌を1日2回あげているんですけど、『1日2回は与えすぎ。だからこんなに太っているんだ。』って言われたんです。」
獣医さん「ん?? 太ってる?? この子がですか?? 標準ですよ。」
飼い主さん「え?? 太ってないんですか?」
獣医さん「僕は太っていると思いません。上から見るとちゃんとウエストもくびれているし、横から見るとお腹も切れ上がっているし。」
飼い主さん「(急に元気になって)なーんだ、大丈夫なんですね。でも、ワンちゃんの食餌は1日1回で良いんですか?」
獣医さん「・・・では、あなたの食事の回数はどうやって決めました?」
飼い主さん「へっ?? 私ですか? ・・・いや、私は朝ご飯を食べないので2回ですけど、誰が決めたって言われても。。。」
獣医さん「ですよね。ワンちゃんの食事の回数も何回が良いという決まりはありません。1日2回でも1回でもその子によって違うと思いますよ。例えば、1日2回にしようと思っても1日1回しか食べないワンちゃんもいますし、逆に1日1回で済まそうと思っても、朝食べたい子もいます。」
飼い主さん「じゃぁ先生、今のままで良いんですね。」
獣医さん「大丈夫ですよ。僕たち人間でも3食きっちり食べる人もいれば、2食の人もいますし、中には1食の人もいますよね。ですからワンちゃんに合わせて食事の回数を決めてあげれば良いと思いますよ。」
飼い主さん「なるほど、そう言われるとそうですね。」
獣医さん「ワンちゃんを飼っていく上で大切なのは、『理由のない固定観念』を持たない方が良いという事だと思います。『ワンちゃんはドッグフードで育てなきゃダメ!!』じゃなくて『ドッグフードの方が手間が省けて、栄養のバランスをあまり考えなくて良い』と言うことです。ホームメイドで育てたい飼い主さんは、それはそれで良いと思いますが、栄養のバランスを考えるのが大変です。」
飼い主さん「はぁ。。。じゃぁ、うちの食餌のあげ方は間違ってなかったんだ。よかった!!」
獣医さん「大丈夫ですよ。ただし、ワンちゃんにタマネギをあげると中毒を起こす子が多いですから、食べ物の種類には注意してくださいね。」
飼い主さん「分かりました。よかったぁ、スッキリしました。」

『固定観念』って怖いですね。いつまでも軟らかい思考力を持ち続けたいものです。かく言う私も40を越えて少し頭が固くなってきたかもしれません。「他人の振り見て我が振り直せ」ですね。失礼しました(苦笑)。