エッセイ
2001年10月31日


最近の流行


 近頃、病院で診察していると飼い主さんから「インターネットで探してみたら全く同じ症状のワンちゃんの話が出ていて、この子はXXという病気じゃないかと思うんですけど。」という話をよく聞きます。残念ながら十中八九は外れています。そんな時、私は飼い主さんに「ほほぉ、もう診断ができてるんだ。じゃぁ、XXと言う病気に効く薬を出せばいいんですね。」と苦笑いしながら切り返します。すると飼い主さんは「いや、そういう訳じゃないんですけど、でもそうだと思います。」なんて、言い切られてしまうことも多くなりました。まぁ、一通り診察させてもらって、飼い主さんの言ったとおりの病気だったらもう大変です。「ほらね!!やっぱり!!」と得意げになったのも束の間、事の重大さに気づいて「あらぁ。。。どうしましょ。。。」という具合になります。頭の中には、治療や世話で大変な思いをしているホームぺージ上の飼い主さんの苦労話がよぎるようです。一方、残念ながら思っていた病気と違っていた飼い主さん達は、「だって、ホームページにそう書いてあったから。。。」と苦笑いしています。確かにホームページに書かれているワンちゃんの話は参考になります。例えば飼い主さんが治療や世話をする上で大変なところやコツなどが書かれている事があるからです。インターネットで情報が氾濫している現在、どの情報をうまく使うかが大切になってきています。それにはひとつの情報にとらわれすぎず、また、たくさんの情報があるが故に頭が混乱するのを防ぎながら、取捨選択することこそが一番大切だと思います。

 例えば、インターネットでワンちゃんが入院していた記事が出ていたとします。そうだ、前に書いた「膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)」について考えてみましょう。代表的な治療には二つの方法があります。まずひとつは、薬を飲んで痛みだけを取ってあげる方法です。この方法は脱臼を直接治すわけではなく、鎮痛剤とか抗炎症剤を使って痛みを取ってあげるだけです。でも中には時間とともに外れても痛みが出なくなってしまうワンちゃんもいるんですよ。その場合、痛みがなければ普通に生活できるワンちゃんが多いみたいです。もうひとつの方法は手術です。この場合には、伸びてしまった靱帯(じんたい)を縮めたり、人工的な靱帯の代わりになるようなものを入れて元の状態に近づくようにしてあげる方法です。二つの方法を比べて分かるように、同じ病気でも自宅で薬を飲むのと、手術で入院するのとでは全然違いますよね。では、たまたまあなたの見たホームページに手術して入院したワンちゃんの事が書いてあったとしましょう。あなたは「そっか、膝蓋骨脱臼は手術して入院するんだ。何々、痛みは1日くらい。。。かぁ。。。」と思うことになります。ところが、いざ動物病院に行ってみると、ひとしきり説明を受け、家に帰ってみると手には薬、ワンちゃんは入院することなく横にいます。「う〜ん、ホームページの情報と違う。。。一体何なんだ。。。」と思ってしまったあなたは、違う動物病院にも行ってみる事にしました。運良く(?)次の病院では手術の話をされ、「やっぱり手術だ!!」と嬉しそうに納得しているあなたがいます。薬を出してくれた獣医さんは、すぐにヤブ獣医に格下げです(苦笑)。
 さてここで何が大切なんでしょう。情報量が多いことは素晴らしいことです。ところがあなたは、たった1つのホームページ、それも1頭の経験だけで判断してしまった訳です。それが間違っているとは思いませんが、もう少し他のページも見た方が良いんじゃないかなと私は思います。もちろんここでお話しした「薬を出した獣医さん」も「手術をした獣医さん」も両方とも間違った治療をしている訳ではありません。ところがちょっと先入観が入ってしまったあなたには「手術」の方が、受け入れやすい状況でした。
ちょっと話は横道にそれますが、これと同じ事が普段散歩に行く公園やお隣同士でも起きています。あなたのワンちゃんが咳をしています。散歩で公園に行くと、いつもはワンちゃんを連れていた方がワンちゃんを連れずに来ていました。そしてあなたのワンちゃんの咳を聞きながらその人は言います。
その人「私のワンちゃんね、お宅のワンちゃんと同じような咳をしてたんだけど、ついこの間亡くなったの。フィラリアだったのよ。」
あなた「そうですか、お気の毒に。。。」
その人「あらっ、お宅のワンちゃん、うちの子と同じでお腹が膨れているわ。きっとフィラリアよ!! 獣医さんがフィラリアだともうダメだって言ってたわよ。」
あなた「えっ!! そうなんですかぁ。。。じゃぁ、獣医さんに行ってもダメかもしれないんですね!!」
その人「うちの子より早ければ、助かるかもしれないわ。動物病院に行ってみたら。じゃぁ。」
と言って立ち去ります。
これであなたの頭の中は不安で一杯です。
「うちのワンちゃん、フィラリアの予防をしているから大丈夫(^^;;;、待てよ、去年1回分飲ませるの忘れたっけ。。。あぁ、あれが原因でフィラリアが入ってたらどうしよう。。。」
動物病院に行って受けた診断は「気管支炎」でした。診断を受けた後も「フィラリアなんじゃないかなぁ。。。」と一抹の不安を持ってしまいます。
実はこれ、うちの病院で起きた、れっきとした実話です。それもついこの間(苦笑)。とうとう抗生物質で良くなって治療が終わる頃に、やっと飼い主さんは納得してくれたようです。
一部だけを見て、全てだと思わないことが大切です。あなたのワンちゃんと同じ病気の隣のワンちゃんは、症状が全然違うかもしれません。隣のワンちゃんと症状が全く同じあなたのワンちゃんは、全然違う病気かもしれません。気を付けましょう(^_^)/。

動物病院流行語録:最近、動物病院に来られる飼い主さんの間で流行っている(!?)言葉に、「歳だから」「ストレスが原因」「アレルギー」などがあります。これらの言葉は飼い主さんが自分自身を納得させるため、ワンちゃんの状態を誤魔化すための言葉です。飼い主さんが、10歳そこそこのワンちゃんを連れて来られて、「歳だから」と諦め顔ともつかぬ表情で言われると、私には「歳だから、仕方がない。」と聞こえます。もし、ここで獣医さんが「そうですねぇ〜、歳だからねぇ〜。しょうがないねぇ〜。」と言ってしまえば、飼い主さんは「やっぱり仕方ないんだ。」と更に納得してしまいます。本当は治してあげられる病気だったのに飼い主さんも獣医さんもそっぽを向いてしまう。とても簡単な事ですよね。歳は取るものですし、身体の機能も低下していきます。これは自然の法則です。でもここで、余りにも早く飼い主さんと獣医さんが「歳だから」と諦めてしまっては、治せば何年か「生きる」ことを楽しめたかもしれないワンちゃんを「見捨てる」ことになります。一概に何歳から「歳」という事は言えませんし、はっきりもしませんが、病院に連れてきて飼い主さんから最初に出た言葉が「歳だから。。。」と諦め顔で言われると、何だかショックです。ちょっと考えすぎですかね(笑)。
さて第二番目。「ストレスが原因」。例えば今までは静かだったのに、近くで工事が始まってワンちゃんが落ち着かないとか、いつもと違う行動をすると言った状況であれば、間違いなくストレスが一因になっているでしょう。あ、思い出した。こういう事もありました。4人家族でお父さんとお母さん、娘さんに息子さん。ある日、娘さんが嫁いで行きました。ワンちゃんは娘さんが嫁いで行ってからと言うもの、全く食事を取らなくなって段々痩せてきてしまいました。何かの用事で実家に帰ってきた娘さんが、ワンちゃんのあまりの変わり様に驚き病院に連れてこられました。病院で色々と検査してみましたが、特にどこか悪いところがあるという結果でもありませんでした。ところが家に帰ってきた娘さんが食器にいつものフードを入れてあげると、おいしそうに食べたじゃありませんか。それを見た他の家族の人たちは一様にビックリしたそうです。おそらくこの状況も「娘さんが嫁いで、突然いなくなったストレス」が原因だったのでしょう。ここまでは、おそらくストレスが原因で起きてしまった事でしょう。と・こ・ろ・が・・・ある日のこと、診察室にワンちゃんがやってきました。飼い主さんが言うには、「たぶんストレスが原因で、下痢してるんだと思います。」との事でしたが、検便してみると「これでもか!!」と言うほど腸内寄生虫がいました。この場合、お腹に寄生虫がいたために下痢をして、肉体的にストレスがかかったと言う事はできるでしょうが、何かのストレス、例えば人間で起きる「緊張して下痢した」なんて事ではありません。診療しているとほぼ毎日こういう会話が1度や2度はあります。ストレスという言葉を簡単に使いますが、ワンちゃんの「精神的なストレス」を完全に理解するには、ワンちゃんと完全に意志疎通、会話でもできなければ分からないと思います。
もう一つ、「アレルギー」という言葉もよく使われます。何でもかんでも「アレルギー」。例えばワンちゃんが来てお尻の方を気にしています。「先生、お尻の方、アレルギーなんですかねぇ。」見ると、肛門嚢がいっぱい貯まっていて気になっていたようですので、しぼってあげたらスッキリしたようです。1週間後、「先生、痒みがなくなりました。アレルギーじゃなかったんですねぇ。」このお話も週に1、2度はする会話です。本当にアレルギーかどうかっていうのは、色々と検査や治療をして時間をかけないと分からないものなんです。詳しいお話は、別の機会に書いてみたいと思います。

 色々と書きましたが、いかがですか? 獣医さんの説明を聞いて、分からなかったら聞き直したり、質問してみる。とても大切な事だと思いますよ。

ほらほら、また聞こえてきました。
「先生、うちの子風邪じゃないかと思うんです。」
「・・・(苦笑)・・・」